平成29年3月1日(水)から6日(月)まで、めいてつ・エムザで 第73回金沢市工芸展 が開催されます。一昨年から第6期の金沢市希少伝統産業木工専門塾が始まり、今回の作品で5回目の出品となります。今回の作品も指物で、2回目の箱です。作品名は、栃拭漆箱(とちふきうるしばこ)です。
第73回金沢市工芸展
今回の第73回金沢市工芸展で5回目の出品となりました。
第69回と第70回では刳物(くりもの)を出品し、第69回ではタモ拭漆手刳六角盆(たもふきうるしてぐりろっかくぼん、タモは木偏に弗)、第70回では楓拭漆器(かえでふきうるしき)を出品しました。
そして、第71回からは指物(さしもの)の盆で、栓拭漆象嵌四方盆(せんふきうるしぞうがんしほうぼん)を出品しました。
これまでの三作品は盆が中心でした。
第72回では、指物の箱で、タモ拭漆箱(タモは木偏に弗)を出品しました。
今回の第73回も、2回目の指物の箱で、栃拭漆箱(とちふきうるしばこ)を出品しました。
今年は、第6期の金沢市希少伝統産業木工専門塾の塾生で初めて作品を出品する人が数名おり、木工作品の出品者が前回よりもさらに多くなりました。
このため、入選されるかどうか心配だったのですが、無事に入選したので、良かったです。
今年の金沢市工芸展は、3月1日(水)から6日(月)までの開催で、10時から開場し、19時30分で閉場します。
最終日の6日(月)は17時で閉場なので注意してください。
ギャラリートークが4日(土)に16時から17時まで行われるので、入賞した作品の詳細を聞くことができます。
栃について
栃は、落葉広葉樹で、日本では東日本(本州、四国、九州)を中心に分布するが、東北地方や北海道に特に多いそうです。
余談ですが、トチノミをトチ餅やトチノミ煎餅のようなお菓子にして特産品として販売しているようなところは、やはりトチノキが多いんでしょうか?
木質はやや軽軟ということで、鑿で削ったりするとタモに比べると確かに柔らかいというか繊維質で粘りがあるような感じがします。
色は、芯が黄金がかった黄色で、周辺が白色です。
しかし、部分的に褐色が入る場合もあります。
今回使用した栃の材料は、拭き漆をする前は本当に黄金がかった黄色で栃の特徴でもある縞模様がホログラフィーのようでした。
このホログラフィーのように見える様子を写真や動画で表わしたかったのですが、上手く出来ませんでした。
とりあえず、拭き漆をした後の栃ですが、左側は縞模様が若干薄くなっており、右側は縞模様が濃くなっているように見えるのではないかと思います。
見る角度によって縞模様が濃くなったり薄くなったりするので、私が好きな木材の一つです。
栃に関する参考サイトを以下に掲載しておきます。
栃拭漆箱(とちふきうるしはこ)
前回の記事では書き忘れましたが、箱は、これまで学んできた木工技術の集大成でもあります。
この理由として、箱の被せ蓋の天板外側は、甲盛と言って、水の表面が表面張力で盛り上がっているような形状に加工してあります。
そして、被せ蓋の四隅の角を鎬(しのぎ)という形状にします。
逆に、天板内側は甲盛の盛り上がりに合わせて経込んだ形状に加工してあります。
このような加工を施すには刳物の技術が必要です。
また、箱の板を組み合わせるため、板の側面に雇い実(やといざね)を入れる溝を切ったりします。
このような加工を施すには指物の盆で学んだ技術が必要です。
これまでの刳り物や指物の盆などの作品を作っていって、ようやっと指物の箱に到達します。
箱の場合、箱の外側だけでなく、内側でも拭き漆をします。
今回の指物の箱は、前回の箱よりも小さいため、被せ蓋や蓋を被せる身の内側に手が入りませんでした。
また、今回の箱の材料である栃は、前回のタモ(タモは木偏に, 弗)に比べて柔らかく、非常に疵が付きやすいです。
どのくらい疵が付きやすいかというと、まず、箱の内側に拭き漆をするため、通常は、漆を染込ませたタオルを木の棒に巻いて漆を塗ります。
そして、今度は乾いたタオルを木の棒に巻いて漆をふき取ります。
しかし、どちらの作業でも木の棒にタオルを巻いているにもかかわらず、ちょっとした力加減や木の棒の角が当たっただけで表面が経込みます。
タモでは、この作業で表面が経込んだりすることはありませんでした。
今回の作品は、2016年度金沢市希少伝統産業木工専門塾作品展で漆を塗る前の見本として展示していました。
栃の杢目(木目の模様)の特徴は縞模様で、虎縞のような虎杢や縞をギュッと縮めたような縮み杢が例として挙げられます。
今回の作品では、縞模様の濃淡を明確にしたかったので、いつも使用する下地漆に黒呂色漆(くろろいろうるし)を少し混ぜて拭き漆を行いました。
縞模様をもうちょっと黒くしたかったのですが、残念ながら自分が思い描いたような黒が濃い縞にはなりませんでした。
逆に色が薄い部分はもうちょっと明るくしたのですが、これまた自分が思い描いたような淡い黄色にはなりませんでした。
他の栃を使用した木工作品で濃い縞と薄い縞のコントラストが綺麗に分かれているのですが、どのような方法で行っているのか不明です。
拭き漆によるコントラストのつけ方は、今後の課題ですね。
ちなみに、箱の中はこんな感じです。
箱のサイズが小さかったので、手が入らず、拭き漆が上手く出来ませんでした…。
中に入っている板は桐です。
底まで割と深くて手が入りにくいので、中に物を入れると取り出しにくいです。
このため、桐板の裏に組み紐を通す溝を入れ、桐板を持ち上げられるようにしました。
こうすることで、物を入れる際には桐板の上に物を載せ、取り出す際には組み紐を持ち上げて桐板とその上に載っている物を引っ張り上げます。
最後に
今回の金沢市工芸展では、材料に栃を用いて、指物の箱を出品しました。
今までの箱に比べてサイズが小さかったので、箱の中の拭き漆が難しかったです。
今後は箱を組む前の段階で内側になる部分を予め拭き漆をしておくなどして、塗り斑を防ぐ必要がありそうです。
拭き漆も栃の縞模様を黒くしたくて、下地漆に黒呂色漆を混ぜて塗ってみたのですが、思うような濃さにすることが出来ませんでした。
今回は下地漆の割合が多かったので、場合によっては黒呂色漆の割合を多くするか、黒呂色漆を先に塗って拭き漆をするかいくつかの方法を試す必要があります。
第6期に金沢市希少伝統産業木工専門塾に入塾した塾生は、今年の9月で卒業です。
なので、第7期の金沢市希少伝統産業木工専門塾の入塾面接を受ける予定です。
しかし、私の場合、今度で3期目になり、場合によっては入塾できないかもしれません。
仮に入塾できなかった場合、木工専門塾で使用してきた大型の昇降盤や手押し鉋を当施設に置くことは出来ません。
このため、当施設で指物を行う場合、今のところ、利用できそうなのがプロクソンのミニサーキュラーソーテーブルとテーブルドリルだけです。
福嶋則夫先生の助言を基に、木工専門塾でこれら二つの電動工具を利用して、指物の盆を作製するための冶具を作製しました。
お陰様で、ミニサーキュラーソーテーブルでは、小さい四方盆や銘々皿を作れるようになりました。
小さい木工作品を作る場合のメリットは、材料が少なくて済むので、一つの木材から作れる作品数が増えるということがあります。
また、拭き漆をする面積が小さいので、短期間で複数の作品に色々な拭き漆を試すことができる可能性があります。
逆に、デメリットは一つ一つのパーツが小さくなって加工しにくくなり、強度が低くなるということです。
実際、箱を組む時の力が強すぎてパーツが割れてしまったことがあります。
これにはまだまだ試行錯誤が必要です。
この工程に関しては、機会があれば紹介したいと思います。
今後は、四方盆や銘々皿だけでなく、箱も作れるようにしていきたいと考えています。
ただ、現在の道具では、小さい箱しか作れないかもしれません。
そして、箱の中の拭き漆を行う場合、箱を組んだ後では拭き漆ができない可能性があります。
このため、箱を組む前に拭き漆を行う方法を考える必要があります。
例えば、拭き漆を行った部分は接着が難しくなるため、接着部分には漆が付かないようにマスキングを行うなどの必要があります。
また、拭き漆をした場合、木が変形する場合もあるので、変形した後の修正方法を考える必要もあります。
さらに、箱を組む時に力加減によっては、拭き漆をした後の木の表面に疵が付く場合もあります。
このため、組む時に疵が付かないようにする対策が必要です。
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