第74回金沢市工芸展 [タモ拭漆小箱(タモは木偏に、弗)]

もの作り
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平成30年2月28日(水)から3月5日(月)まで、めいてつ・エムザで 第74回金沢市工芸展 が開催されます。昨年11月から第7期の金沢市希少伝統産業木工専門塾が始まり、今回の作品で6回目の出品となります。入選回数が5回になると金沢市工芸協会への入会資格が得られるので、今年から金沢市工芸協会に入会しました。今回の作品も指物で、3回目の箱です。作品名は、タモ拭漆小箱(たもふきうるしこばこ、タモは木偏に弗)です。今までの作品との違いは、板の加工を小型のホビー用工具で行っていることです。このため、今回の作品は今までの作品に比べるとかなり小さく迫力に欠けるので、入選されるのか不安がありました。無事に入選したので紹介したいと思います。

 

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第74回金沢市工芸展

今回の第74回金沢市工芸展で6回目の出品となりました。

第69回と第70回では刳物(くりもの)を出品し、第69回ではタモ拭漆手刳六角盆(たもふきうるしてぐりろっかくぼん、タモは木偏に弗)、第70回では楓拭漆器(かえでふきうるしき)を出品しました。

そして、第71回からは指物(さしもの)の盆で、栓拭漆象嵌四方盆(せんふきうるしぞうがんしほうぼん)を出品しました。

これまでの三作品は盆が中心でした。

第72回では、指物の箱で、タモ拭漆箱(タモは木偏に弗)を出品しました。

第73回も、2回目の指物の箱で、栃拭漆箱(とちふきうるしばこ)を出品しました。

今年は、金沢市希少伝統産業木工専門塾の第7期の初年度で、入塾生も16名となりました。

今までに比べると女性の入塾生が増え、若い人も増えました。

私も含めて6期の塾生がほぼ全員、7期も継続して入塾しているので、今年も木工作品の出品者が多いです。

このため、入選されるかどうか心配だったのですが、無事に入選したので、良かったです。

今年の金沢市工芸展は、2月28日(水)から3月5日(月)までの開催で、10時から開場し、18時30分で閉場します。

最終日の5日(月)は17時で閉場なので注意してください。

ギャラリートークが3月3日(土)に16時から17時まで行われるので、入賞した作品の詳細を聞くことができます。

 

 

タモ(タモは木偏に弗)について

今回の作品に使用した木材は、タモ(タモは木偏に弗)です。

金沢市希少伝統産業木工専門塾では、最初に使用する木材で塾生にとって馴染みが深いです。

タモについては、Weblioから以下の内容を引用しました。

モクセイ科広葉樹トネリコ属トネリコアオダモヤチダモ総称である。一般に材質強靱で、建築造作材フローリング材のほかに、家具器具運動用具などの素材として用いられている。英名を「アッシュ」といい、北米ホワイトアッシュ欧州のユーロピアンアッシュなども、タモと同様に良材である。
Weblio辞書「タモ」より

Wikiによると、トネリコの名前の由来は、この木の樹皮に付着するイボタロウムシが分泌する蝋物質(イボタロウ)を動きの悪くなった敷居の溝に塗って滑りを良くすることから「戸に塗る木」とされたのが、転訛して「トネリコ」となったそうです。

塾生同士の会話の中でたまにイボタロウの話題が出てくるのですが、イボタロウムシがタモの樹皮に付着するというのは知りませんでした。

タモは、ケヤキに似ており、ケヤキに比べて安価?であるため、刳物や指物の作製の基礎を身に付けるのに最適だそうです。

確かに、基礎も身についていない段階で高価な木材や希少な杢目(木面の模様)の木材を使用して失敗したら目も当てられませんよね。

その他にタモと聞いてよく言われるのが、硬質で弾力性に富むことから野球のバットやテニスのラケットに使われるということでしょうか。

卒業展や作品展などに見学に来る人に材料がタモであることを説明すると、この話が出てくる場合があります。

タモには、タケノコ杢や玉杢、縮み杢など色々な杢目があるので、将来的に他の木の杢目を想定した作品の練習にも良いのかもしれません。

タモにはヤチダモやトネリコなどがありますが、今回の作品に使用したタモがどちらかは分かりません。

 

 

玉杢(たまもく)について

今回の作品の杢目には、若干の玉杢が含まれています。

玉杢の説明に関しては、以下の通りです。

樹木の瘤(こぶ)のようなところをスライスすると現れる比較大きな同心円形の模様を「玉杢」あるいは「珠」という。ケヤキ(ニレ科広葉樹で、赤味を帯びたものほど良質といわれる)や、クスノキ(クスノキ科広葉樹で、心材黄褐色〜紅褐色をしている)に、現れる杢目である。

Weblio辞書「玉杢」より

ケヤキやクスノキに現れる杢目のようですが、以下のサイトでは栓やタモにも見られるようです。

杢の種類と魅惑−樹木の内なる美

玉杢はちょっとした杢目のアクセントになり、拭漆をすると光沢が出て綺麗です。

しかし、鉋で表面を整える場合、かなり厄介です。

木材に鉋を掛ける場合、図1の玉杢がない場合は矢印の方向に鉋を掛けると逆目となり、赤線で示した部分が鉋の刃に引っ掛かって引き剥がされるような形で削れます。

このように削れた場合、切削面が凸凹になって汚くなります。

このため、図1のような木目で鉋を掛ける場合、矢印とは反対方向に鉋を掛けます。

ちなみに、図では説明しませんが、この場合は刃の向きも反対になります。


図1

図2

図2に示すような矢印方向で玉杢に鉋を掛ける場合、玉杢の中心から木目が反転して逆目となり、赤線で示した部分が鉋の刃に引っ掛かって引き剥がされるような形で削れます。

このため、玉杢中心に向かうようにして鉋の向きを変えながら削るのが一つの方法として挙げられます。

しかし、図2のように玉杢が一つだけなら、この方法で削ることが出来ます。

では、今回の作品のように玉杢が複数ある場合、鉋で仕上げるにはどのようにしたら良いでしょうか?

残念ながら、今回の作品の場合、玉杢周辺に鉋によって付いた傷が若干残ってしまいました。

玉杢周辺をよく見ると、その傷が分かると思います。

玉杢が複数あって傷を作ることなく削れる人は、鉋の手入れだけでなく、鉋を扱う技術も高いと言えるかもしれません。

 

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タモ拭漆小箱(たもふきうるしこばこ)

今回出品した作品は、今までの作品と異なってサイズが小さいです。

この作品の大きさは、幅8cm×奥行8cm×高さ5cmです。

去年行われた金沢市希少伝統産業木工専門塾作品展に途中経過として出品しました。

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拭漆の回数が少なかったので、福嶋則夫先生に拭漆の状態を確認していただいたところ、塗り直しを提案されました。

そこで、金沢市工芸展に出品する数週間前に箱の表面を800番の耐水ペーパーで磨いて、拭漆で塗った部分を落としました。

その後、拭漆を再度行いましたが、気温が低く、湿度も低いため、漆が乾きにくく、漆が乾くまでに1-2日掛かりました。

このため、出品までに十数回しか拭漆が出来ませんでした。

漆が乾くには湿度が必要であり、温度も24~28度が必要です。

しかし、1月や2月に漆を乾かすために室温を24度で維持するのは大変です。

本来なら別の作品を出品する予定だったのですが、時間的に間に合わず、急遽、この作品を手直しすることになったので、拭漆の回数が少ないのは仕方ありませんでした。

Xperiaの3D Creatorで撮影した3Dモデルを以下に掲載します。

箱の裏になる高台(こうだい)部分は撮影できないので見ることはできません。

しかし、それ以外は回転させたり、拡大したりすることで見ることが可能です。

 

[Canvasio3D Scene=8]

 

拡大してみると、やはり逆目で毟れた傷が見えますね。

残念ながら、箱の中身は上手く撮影できなかったので、お見せすることが出来ません。

木材を加工するにしろ、拭漆をするにしろ、作品が小さくなった分、多少は楽になるだろうと考えていました。

しかし、実際にやってみると、作品の大きさに関わらず、掛かる手間は大して変わりませんでした。

むしろ、小さくなった分、持つ部分が小さくなって力が掛け辛くなり、むしろ何かとやり辛くなった様に感じました。

電子製品でもそうですけど、小型化する方がむしろ色々と技術が必要なんですよね。

考えが甘かったです。

ただ、大きな作品を作る場合、その分、大きな材料が必要ですが、小さな作品では同じ大きさの材料から作品を複数回作製することが可能です。

その分、練習ができるので、そこはメリットがあると思います。

 

 

最後に

今回出品したタモ拭漆小箱は、今まで出品した作品の中では最も小さいです。

恐らく、今後の作品も小さいものになるでしょう。

金沢市希少伝統産業木工専門塾は3期(9年間)まで受講可能です。

その間は、芸術村の職人大学校にある手押し鉋や昇降盤などの大型の電動工具を利用することが可能です。

しかし、3期修了後は上記の電動工具を利用できなくなります。

このため、もし金沢市希少伝統産業木工専門塾修了後も木工で大きな作品を作り続ける場合、個人で工場を借りて、大型の電動工具も一から揃える必要があります。

木工専門塾の修了生であれば、独立する際に市から補助金が下りる?そうですが、木工を専門に事業を起こすのは中々難しいです。

そこで、個人である程度、街中でも木工を継続できる方法として、ホビー用の電動工具を利用することにしました。

ホビー用なので、精度に何かと問題があります。

しかし、その点については、福嶋則夫先生のご助言をいただきながら、以下の電動工具で指物の皿や箱などを加工できる冶具を作製しました。

プロクソン(PROXXON) ミニサーキュラソウテーブルEX NEXモデル小型卓上丸鋸盤 薄板材の精密切断に最適 No.27006
安全性、作業性を兼ね備え、卓上で手軽に直線切り、角度切りが行える小型卓上丸鋸盤 木材・プラスチック・軽金属の直線切り、角度切り作業 直線ガイドを使用しての寸法切りに適している 角度ガイドを使用しての任意の角度切りが行える 保証期間:お買い上...
プロクソン(PROXXON) テーブルドリル 小型卓上ボール盤 【3段ベルト変速、穴開け0.8~6.0mmまで】 No.28128
【用途】 ●精密な穴開け加工ができる卓上小型テーブルドリル 【特徴・機能】 ●精密な穴開け加工ができる卓上小型テーブルドリル ●本体/アルミダイカスト ●支柱/鉄

去年の金沢市希少伝統産業木工専門塾作品展で指物の小箱と小皿を試作品として展示しました。

三年後の修了時には、大型の電動工具がなくても、小型の電動工具を用いて、冶具や作品を作れるようになっていればと思います。

 

T&N リサーシャでは、精神病やその可能性のある人たちに「もの作り」を通したカウンセリングを行っています。

そして、革細工や織物、木工を主な行動評価課題としています。

これは、簡単な作品から複雑な作品へと段階的な工程を経ることで、精神病などの脳の機能障害が社会復帰にどのような影響を与えうるかを利用者さんに提示するためです。

そして、複数のセンサーで「もの作り」の動作を数値化し、その数値の変化を通じて利用者さんにも客観的に自分の状況を理解できるようにもしています。

木工は「もの作り」の基本であり、鑿や鉋、鋸などの多くの刃物を扱います。

このような刃物を利用者さんが安全に扱えるように教えられる経験や知識が必要と考えました。

そこで、木工の課題の一環として、金沢市希少伝統産業木工専門塾に入塾しました。

今現在も利用者さんは少ないですが、社会復帰した利用者さんは増えています。

その過程の中で、利用者さんの状態が良くなると「もの作り」の作品に対して拘りが見られるようになります。

私自身も入塾したときは右も左も分からず、木工作品に対してあまり拘りはありませんでした。

しかし、色々な作品を刳物から指物へと段階的に作り続けていく中で材料に拘るようになったり、作製方法に拘るようになってきました。

当施設の利用者さんが将来的に木工に興味を持った時、大きな作品作りは部屋の広さ的に難しいです。

しかし、小さな作品でも、ちゃんとした刳物や指物が作れるように出来ればと思います。

 

将来的には、限られた空間の中で使用できる電動工具は小さいものとなり、作れる作品も小さいものとなります。

ただ、それは当施設にとっては、大きな材料が置けないので、都合が良いかもしれません。

また、当施設の利用者さんが木工をするにしても、サイズの小さい方が何かと都合が良いと思われます。

今年から金沢市工芸協会に入会し、今までに比べると小さい作品だったのでどうなるか分かりませんでしたが、無事に今回の作品が入選しました。

今後出品する作品も小さいものになりますが、来年も入賞とはいかなくても、入選できればと思います。

また、当施設の利用者さんが作ってみたいと思えるような作品を作っていけたらと思います。

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