平成31年2月27日(水)から3月4日(月)まで、めいてつ・エムザで 第75回金沢市工芸展 が開催されます。今回の作品は、7回目の出品で、お菓子を載せる銘々皿です。作品名は、栃縮杢拭漆銘々皿(とちちぢみもくふきうるしめいめいざら)です。作品名の縮杢は木の模様を意味します。無事に入選したので紹介したいと思います。
第75回金沢市工芸展
今回の第75回金沢市工芸展で7回目の出品となりました。
第69回と第70回では刳物(くりもの)を出品し、第69回ではタモ拭漆手刳六角盆(たもふきうるしてぐりろっかくぼん、タモは木偏に弗)、第70回では楓拭漆器(かえでふきうるしき)を出品しました。
そして、第71回からは指物(さしもの)の盆で、栓拭漆象嵌四方盆(せんふきうるしぞうがんしほうぼん)を出品しました。
これまでの三作品は盆が中心でした。
第72回では、指物の箱で、タモ拭漆箱(タモは木偏に弗)を出品しました。
第73回も、2回目の指物の箱で、栃拭漆箱(とちふきうるしばこ)を出品しました。
第74回は、3回目の指物の箱ですが、今までの作品で最も小さい、タモ拭漆小箱(たもふきうるしこばこ、タモは木偏に弗)を出品しました。
この小さい作品を作った理由は、ホビー用の電動工具でどの程度の物が作れるかに挑戦したかったからです。
金沢市希少伝統産業木工専門塾は、最長で3期(9年間)まで在籍できますが、基本的には、それ以上の期間延長が出来ません。
3期修了後は、施設にある大型の電動工具を利用できなくなります。
私は現在3期目なので、今後、作品を作り続ける場合は、自分で設備を整える必要があります。
しかし、個人で建物や大型の電動工具を用意するのは非常に難しいです。
これまでに、私は、電子回路の試作にホビー用の電動工具利用してきました。
そして、ある時、指物の加工に利用できそうなことに気付きました。
ホビー用の電動工具は小さいので、作れる作品も小さいものに限られます。
また、作品が小さすぎると木が指物の加工に耐えられない可能性があります。
そこで、前回は、ある程度の大きさと木の厚みが必要な指物の箱を作製することにしました。
ホビー用の電動工具で指物の箱が作れることが分かったので、今回は皿を作ることにしました。
ただし、大きい皿は作れないので、お菓子を乗せる銘々皿にしました。
今年の金沢市工芸展は、2月27日(水)から3月4日(月)までの開催で、10時から開場し、18時30分で閉場します。
最終日の4日(月)は17時で閉場なので注意してください。
今年は、2月27日にパティシエの辻口博啓氏と十一代大樋長左衛門氏による対談が行われ、お茶席で辻口氏による特製お菓子が数量限定で出されます。
また、工芸体験コーナーも3月2~3日に13~16時まで行われます。
3月2日 |
金沢九谷の器づくり |
打込象嵌のアクセサリーづくり |
3月3日 |
型染の巾着づくり |
竹の菓子ようじづくり |
ギャラリートークが3月2日(土)に16時から17時まで行われるので、入賞した作品の詳細を聞くことができます。
栃について
今回の作品に使用した木材は栃です。
栃は、その杢目がホログラフィーのように見る角度によって変化します。
金沢市希少伝統産業木工専門塾では栃で作品を作る人が多く、馴染みのある木ではないかと思います。
私自身、初期の頃に塾生が栃で作品を作っているのを見て、栃に興味を持ちました。
栃については、Weblioから以下の内容を引用しました。
心材と辺材の色の違いはほとんどありません。木材の色はやや赤みを帯びた黄白色~淡黄褐色です。年輪の境はあまりはっきりしません。肌目は精で、仕上げた材面には絹のような光沢があります。大木になるとその幹にはコブがあったり凹凸があるため、木材になったときにその木理が乱れることがあります。この結果、いろいろの美しい杢をもったものがあります。気乾比重は0.40-0.52(平均値)-0.63で、軽軟な木材といえます。木材の保存性は非常に低いです。切削などの加工容易で、よい仕上がり面がえられます。乾燥の際狂いが出やすいといわれています。
Weblio辞書「トチノキ」より
栃の杢目は非常に美しくて希少性があり、杢目によっては材料だけでも非常に高価になる場合があります。
栃の杢目には、虎縞のような虎杢(とらもく)、後で紹介する縮杢(ちぢみもく)、絹糸のような輝きがある絹糸杢(けんしもく)などがあるようです。
そして、これらの杢目を黒呂色で拭漆をすると、漆が染み込み易い部分とそうでない部分とで杢目の境目がはっきり現れます。
上記の説明にもあるように、軽軟な木材なので、ちょっとぶつけたりしただけでも傷がつく場合があります。
実際に、木の表面を紙やすりで磨いている際に、いつの間にか傷がつき、紙やすりでさらに傷を落とすということをしていました。
また、拭き漆をしている最中に爪が当たって傷がつき、表面の漆を全部剥がすということもありました。
恐らく、全ての傷を落とし切るのは相当大変だと思います。
私は途中で妥協しました…。
縮杢について
縮杢は、年輪や繊維方向からなる木目に対して直交するように現われ、木目が波状の縞模様を縮ませて皺がよったような杢目です。
胸高直径が70センチメートル以上の大径木の柾目に出やすいようです。
縮杢が生まれる原因は、風雨などの何らかの外的要因で樹木が曲がったり、枝の重みで樹木に負荷が掛かったことが考えられるそうです。
また、約3cmの間に8本の縞模様が連なる一寸八縮(いっすんやちぢみ)が最高の杢目だそうです。
中には、一寸十縮(いっすんとおちぢみ)と呼ばれる細かい縞模様の杢目もあるそうです。
どちらの縮杢が良いかは、どのような作品にするかに左右されるのではないかと思います。
仮に、一寸八縮の縮杢が入った大きな箱があった場合、材料費だけでもそれなりの値段がすると思います。
また、表面に傷がなければ、表面を相当磨いている可能性が高いので、かなりの手間が掛かっていると思います。
栃縮杢拭漆銘々皿(とちちぢみもくふきうるしめいめいざら)
以前から栃の縮杢を使った作品を作りたいという思いはありました。
しかし、一寸八縮で箱を作れるだけの板材は希少価値が高く、材料費も高いので、なかなか手が出ません。
たまたま、材木の芯部分から製材される柾目材で、縮杢が現れている木材が手に入りました。
この木材は柾目よりも厚み約1.5cmの板目の方が縮杢が綺麗でした。
この厚み1.5cmの板目で作品を作るとしたら、小さい物しか作れません。
そして、板目材として切り出した場合、幅1.5cmになるので、指物の銘々皿の縁になら使えると考えました。
ただ、板目材は、柔らかく、変形しやすいという欠点があります。
しかし、長い木材の時は多少目立っていた変形も、短い木材に加工してしまうと、ほとんど分からなくなりました。
一応、今回の作品を作る前に、もうちょっと小さい作品を試験的に作りました。
そして、その試作品を2017年に行われた金沢市希少伝統産業木工専門塾作品展に一枚だけ出品しました。

今回の作品は、この時の物に比べて3mmほど大きく、板材も1mmほど薄く作ったので、大きさの割には軽く出来上がっています。
皿の大きさ(縦×横) | 板の厚み | 重さ | |
試作品 | 9.5×9.5 cm | 4mm | 2.9g |
栃縮杢拭漆銘々皿 | 9.8×9.8 cm | 3mm | 2.35g |
拭漆は、どちらも下地漆に黒呂色を混ぜて行っています。
しかし、2017年に拭漆をした試作品と今回の作品を比較すると、試作品の方が色が若干薄くなっています。
栃を拭漆をすると、最初は赤茶っぽい色になるのですが、拭漆を塗り重ねたり、時間が経過すると黄色っぽい飴色に変化していきます。
二つを並べて比較してみると、フラッシュで若干反射していますが、左の栃縮杢拭漆銘々皿より右の試作品の方が色が薄く見えると思います。
試しに、試作品と栃縮杢拭漆銘々皿とで別々に撮影してみましたが、やはり試作品の方が色が薄いです。
私の記憶では、試作品ももうちょっと黒かったと思います。
作品名には杢目の名称として「縮杢」をあえて加えました。
これは、上記の作品展で見学者の方から作品名の規則性や木の模様(杢目)について質問されたからです。
このとき、木の加工技術だけでなく、杢目の価値についても説明しました。
しかし、木工を始めたばかりの自分と同じように、当然のことながら、杢目の希少性については全く知られていませんでした。
そこで、どうせなら杢目についても興味を持ってもらえるように、今回の作品に杢目の名称を加えることにしました。
最後に
前回の第74回に出品したタモ拭漆小箱(たもふきうるしこばこ、タモは木偏に弗)に引き続き、今回も以下の電動工具で冶具を作製しました。


しかし、作品の大きさが変わっても、木の表面を磨いて傷や凹みを消す手間も、拭漆をする手間も、今まで作ってきた作品と変わりません。今回の作品は、銘々皿なので、今までの作品に比べて小さく、手間もそんなに掛からないだろうと考えていました。
むしろ、銘々皿として作品にする場合、同じ手間を5枚全てに掛けなければならないので、想像以上に大変です。
よく木工作品の価格を聞いて驚かれる方がいます。
私自身も木工を始める前は、何故そんなに高くなるのか不思議に思い、驚いたことがあります。
しかし、自分で木工を習い始め、実際に材料を見に行くようになると、まず材料の高さに驚きました。
金沢市希少伝統産業木工専門塾では、刳物の盆から指物の箱まで習い、その際はタモを教材として使用します。
部位にも依りますが、タモは、教材として使われるくらい、初心者には加工しやすく、変形しにくい木材だと思います。
その中から、さらに福嶋則夫先生が使いやすそうな材料を選んでいると思いますが…。
ところが、自分で材料を選んで、いざ加工してみると、反って変形したり、傷が付きやすかったり、凹みやすかったりします。
これは、杢目しか見ておらず、板目材か柾目材かで加工時にどのような問題が起こるかまで、気を配っていなかったからです。
木を構成部品毎に裁断する際は、どの部分の杢目を作品に取り入れるか、また板目か柾目かで木の反りが出やすいか出にくいかも考慮する必要があります。
木材を裁断した後に反りの出方を確認し、反りがある場合は、鉋で削ったり、紙やすりで磨いたりして形を整えます。
ただし、この形を整えるときに鉋や紙やすりで傷が付いたり凹んだりする場合があるので、この点に関しても注意が必要です
次に、指物として使えるように板材を加工するのですが、この加工の際にも傷が付いたり、凹んだりします。
木材をある程度磨いて表面を整えた後に、再度、傷や凹みができると、それを修正するために紙やすりでまた磨かなければなりません。
ただし、傷や凹みを早く落とそうとして目の粗い紙やすりで磨くと、その粗さが傷となって現れます。
また、鉋で削ろうものなら、刃の当たり具合によっては木目が毟れて被害が拡大する場合もあります。
そこで、目の細かい紙やすりで傷や凹みを修正する必要があるのですが、目が細かいと中々削れません。
傷や凹みがないことを確認したら、次に木工用ボンドで貼り付けます。
しかし、この際にも気を付けないと再度、傷や凹みが出来てしまいます。
私が今までに作った作品で、組み立て時に傷や凹みが付かなかったことはありません。
このため、組み立てた後も、目の細かい紙やすりで、時間を掛けて地道に表面を磨く以外に方法はありません。
組み立てた後に、表面を紙やすりで磨き終わったら、今度は、拭漆を行います。
一日おきに拭漆を何回か行うと、表面に光沢が出てきます。
光沢が出てくると、今まで見えなかった傷や凹みが出てきます。
場合によっては、拭漆の際に力を入れすぎたり、爪が当たったりすることが傷や凹みの原因になります。
拭漆を行った後に傷や凹みが表面で目立つ場合、今度は耐水の紙やすり(耐水ペーパー)で磨く必要があります。
これは、漆を塗った木材を通常の紙やすりで磨くと、その削り粉に粘りがあるせいで、紙やすりの表面にくっつき、目詰まりを起こして削れなくなるからです。
傷や凹み部分の漆は耐水ペーパーが当たらないので残ります。
このような傷や凹みに残った漆が全てなくなるまで細かい耐水ペーパーで作品全体を磨きます。
なぜなら、漆の残った部分だけを磨くと、今度はそこだけを磨きすぎて凹むからです。
全ての拭漆を落とし終わってようやっと、再度、拭漆を行うことができます。
拭漆では、下地漆を塗る布と、塗った漆を拭き取る布で、木全体に漆を塗ってから拭き取ります。
その後、漆を乾かし、再び拭漆をするということを何十回と繰り返します。
このように、木の表面に光沢が出るようにするには、耐水ペーパーで表面の傷や凹みを削り、拭漆をするということを何回も繰り返します。
その結果、一つの作品が出来上がるまでに何十日も掛かるので、単純な時給換算でも作品の価格が驚くほど高くなってしまいます。
何に一番時間が掛かるかと言えば、作品表面の傷や凹みを無くすことです。
なので、サンダーなどの電動工具を使えば時間が短縮できるのではないかと考える人は多いと思います。
しかし、電動工具では、木を組み立てた後の細かい部分が削れません。
また、場合によっては、必要以上に削ってしまう場合があります。
このため、どうしても人手で地道に削るしかなく、否が応でも手間暇が掛かってしまいます。
とはいえ、掛かった時間をそのまま作品の価格に反映させても誰も買いたいとは思わないのが現状です。
まぁ、どういう訳か、金沢市希少伝統産業木工専門塾で作った作品を購入したいという人が仮に現れたとしても販売は出来ないみたいですが…。
結局、3~9年もの時間を掛けて木工の技術を学んでも、その間に作った作品を販売できるわけではありません。
販売できなければ、収入に繋がらないので、続けていくことは難しいと思います。
元々、金沢市希少伝統産業木工専門塾は、漆芸に使う木地を作れる木工職人が減少していたため、木工職人を育成することが目的であったと聞きます。
しかし、修了後は、専門塾の設備を使うことは出来なくなるので、木工職人として生計を立てていくことは難しいです。
木工作品の価値を理解してもらうには、木材の価値や加工の手間だけでは不十分なような気がします。
ただ、それ以外に何をすべきかは自分も思い浮かびません。
あとは、作品展の見学者のから質問された木工作品の用途を提案することでしょうか?
今回出品した作品では、作品名に木材の特徴である杢目を追加し、用途としてお菓子を乗せる銘々皿にしました。
今後も色々な作品作りを通して、どのような作品が木工作品の価値を知ってもらうことに繋がるかを試行錯誤していくしかありません。
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