【第三回】統合失調症の利用者さんの合同会議

もの作り
この記事は約8分で読めます。

 約1年振りに 【第三回】統合失調症の利用者さんの合同会議 を当施設で行いました。今回で3回目の合同会議になります。前回から今回までの約1年間に得られたデータで見られた変化を紹介しました。

 

 

スポンサーリンク

はじめに

 複数施設の関係者と利用者さんの今後について、約1年振りに合同会議を行いました。前回行った合同会議については以下を参照してください。

【第二回】統合失調症の利用者さんの合同会議
約1年振りに【第二回】統合失調症の利用者さんの合同会議をT&Nリサーシャで行いました。今回で2回目の合同会議になります。前回から今回までの約1年間に得られたデータで見られた変化を紹介しました。 はじめに 先日、いくつかの施設の関係者の方とリ...

 

利用者さんについて

 この利用者さんは、当施設に来た当初は統合失調症の診断を受けていました。しかし、その後、双極性障害に診断が変わりました。リサーシャでは、いくつかの「もの作り」の動作を複数のセンサーを用いて計測しています。そして、計測した数値の変化を利用者さんに毎回フィードバックしています。今回の合同会議でも、各施設の情報をお互いに共有しました。

 

生活の変化について

 1年前に比べて、この利用者さんの生活に変化がありました。生活の変化は以下の通りです。

  • 介護ヘルパーさんの協力を得ながら食事を作るようになった。
  • 就労支援に通うようになった。
  • 趣味のために外出するようにもなった。

このように、去年に比べて活動が増えている印象を受けました。作業でも、木工を始め、新たなことにも挑戦する姿勢が見受けられました。これらの変化が、この利用者さんの社会的関与や自己効力感の向上に繋がっていると考えられます。ところが、リサーシャでの様子やデータの変化を見る限り、状態がそれほど良くなっておらず、むしろ若干悪化しているように思えました。

 

状態の悪化について

 状態悪化の判断理由は、まず計測データで時間が伸びる傾向が見られたためです。過去にうつ症状がひどくなった時も計測データが伸びる傾向が見られていました。また、計測を行わない作業でも動作が遅く、中々進みません。さらに、日常生活でも身体のふらつきを訴えていました。そして、「動きがとろい」との自己評価もありました。これらの変化は、他施設や日常生活でも同様に見られるのか把握できていません。また、他の要因が影響しているのかも把握できていません。そこで、今回の合同会議では、自宅や就労支援施設での様子を伺うことにしました。

 

 

データの変化について

 当施設では、革細工の一部の動作を計測しています。木槌で刻印を2回叩いてずらす動作を1セットととしています。そして、5cm幅の線の上で50セット繰り返してもらいます。その動作の変化を利用者さんに毎回フィードバックしています。最初の頃は刻印を細かくずらせず、50セット繰り返せない場合もあります。​今回の合同会議では、この動作計測の前回(2022)と今回(2023)のデータを比較してみることにしました。2022年は試行回数52回分、2023年は試行回数41回分を示します。

 

刻印打ちの1セットの平均時間の変化

 2022年では約1.5秒付近で増減しています(図1.1)。しかし、2023年では約2秒付近で増減しています(図1.2)。

図1.1 刻印打ちの1セットの平均時間(2022) 図1.2 刻印打ちの1セットの平均時間(2023)

 この利用者さんは過去に病気を再発して入院しており、退院後にこの時間が2秒以上伸びていた経緯があります。この変化は、恐らく、再発による機能低下と予測されていました。ところが、2021年のある時期から時間が縮んでいきました。このことに興味がある方は以下の記事を参照してください。

【第一回】統合失調症の利用者さんの合同会議
以前から話があった統合失調症の利用者さんの合同会議をしました。この利用者さんがリサーシャに来て数年経ちますが、初の合同会議です。電話でのやり取りはありましたが、これまでは実際にデータを見せて説明することはありませんでした。そこで、この合同会...

 とりあえず、病気の再発後に機能低下によって伸びていた時間が縮んでいきました。そして、機能低下が回復してきたと思っていたところ、再び時間が伸びてきていました。2022年と2023年の比較データでも時間が伸びています(図1.3)。

図1.3 刻印打ちの1セットの平均時間の比較

 

木槌の振り幅の変化

 2022年では約4cm付近で増減しています(図2.1)。2023年でも約4cm付近で増減していますが、変動が激しいように見えます(図2.2)。

図2.1 木槌の振り幅(2022) 図2.2 木槌の振り幅(2023)

木槌の振り幅が大きくなった理由には、以下のことを意識したことが考えられます。

  • 刻印を垂直に立てる。
  • 木槌の中心で刻印を打つ。

刻印の持ち方や木槌と刻印の位置確認のために振り幅が大きくなった可能性はあります。刻印打ちを丁寧にしようとする意識の現れかもしれません。2022年と2023年の比較データでも2023年の方が大きいです(図2.3)。

図2.3 木槌の振り幅の比較

 

ゴム板への衝撃の変化

 2022年では約0.6G付近で増減しています(図3.1)。2023年では約0.7G付近で増減しています(図3.2)。しかし、どちらも微妙な変化で、あまり差がないように見えます。

図3.1 ゴム板への衝撃(2022) 図3.2 ゴム板への衝撃(2023)

 2022年と2023年の比較データでも、2023年の方が若干増えています。しかし、ほとんど差がないことが分かります(図3.3)。衝撃が大きくなった理由は、木槌と刻印の位置確認を意識した結果かもしれません。

図3.3 ゴム板への衝撃の比較

 

 

自宅や就労支援施設での様子について

 動作の緩慢さについて、各施設の方に日頃の様子を伺いました。

自宅での様子

まず、介護ヘルパーの方に食事を作る際の様子を伺いました。すると、動作は遅いが丁寧に調理しているとのことでした。

 

就労支援施設での様子

次に、ソーシャルワーカーの方に就労支援施設での作業の様子を伺いました。すると、苦手な作業はやらないが、基本的には丁寧に作業をしているとのことでした。

動作の遅さや身体のふらつきについて特別な言及はなく、自宅での調理や就労支援施設の作業を真面目に取り組んで丁寧にしているということに関して意見が一致していました。

 

当施設での様子

 確かに、当施設の作業でも多少自己流を入れようとするところはあります。しかし、基本的には真面目に取り組んで丁寧にしています。ただ、丁寧にしているから遅いのか、遅いから丁寧に見えるのかは分かりません。また、度々、大きな声で独り言を言ったりします。あるいは、失敗したり、何か問題が起こると驚嘆の声をあげることがあります。

 このような行動が見られるか各施設の担当者に伺ったところ、それはないとのことでした。この利用者さんは陽性症状が出始めると、大きな声で独り言をいうことがありました。しかし、陽性症状が出ているときは、どちらかというと動作が速くなる傾向が見られていました。

 

これまでの傾向

 この利用者さんは、これまでの傾向で考えると、今回は動作が遅くなっています。このため、陽性症状が出ているとは考えにくいです。過去の陽性症状で見られたような大きな独り言や驚嘆の声はあります。しかし、動作速度の向上はありません。どちらかというと、以前にも見られた身嗜みに気を遣わない傾向と動作速度の遅延から、陰性症状が出ているようにも見えます。当施設を利用するようになって10年近く経ちます。ひょっとしたら、身嗜みに気を遣わないのは、慣れが生じているのかもしれません。

 

 

まとめ

今回の合同会議の内容を以下のようにまとめました。

不調の訴えと計測データ

 去年から活動量が増えた利用者さんが、身体の動きの不調を訴えるようになりました。その不調の訴えに一致するように、計測データでは時間が伸びました。そして、作業も遅くなっていました。このような傾向が自宅や他の就労支援施設でも見られるのか、今回の合同会議で他の施設の担当者の方たちに様子を尋ねたところ、作業が丁寧な分、動きが遅くなっているという印象だったそうです。

 

入院前後の変化

 この利用者さんは、入院する前はランニングをしたり、服装や体型も気にしていました。しかし、退院後は、別人のようにランニングもできなくなりました。そして、服装や体型も気にしなくなってしまいました。当施設での計測データでも時間が伸びて退院後の身体機能の低下も明らかでした。ところが、去年、一時的にではありますが、計測データで伸びていた時間が縮み始め、身体機能が回復してきたかと思っていました。

 

身体機能の回復に向けた取り組み

 身体機能を少しでも回復できるように、就労支援施設にも通い始めました。そして、それ以外にも外出する機会を増やしました。ところが、改善が見られていないように思えます。今回の合同会議では、介護ヘルパーやソーシャルワーカーの方の訪問時、就労支援施設や当施設の通所時以外の時間帯に、この利用者さんが何を行っているかは分かりませんでした。ひょっとしたら、私たちが関わっていない時間帯に何かあるのかもしれません。

 

日課表の記入再開の必要性

 この原因を調べる方法として、途中でやめてしまった日課表の記入を再開してもらう必要があると思います。問題は、一度やめてしまった日課表の記入を再開してくれるかどうかです。本人が現状に危機感を感じ、日課表の記入を再開してくれると良いのですが…。今回の合同会議では、本人のペースに合わせて来年まで様子を見るということになりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました